日本となつめの物語
~薬として、庭木として寄り添ってきた小さな果実~
なつめ(棗・大棗)は、中国では古くから「百薬の長」と呼ばれるほど大切にされてきた果実です。赤くて丸い実は乾燥するとほんのり甘く、薬膳やお茶に使われる姿を目にしたことがある方も多いのではないでしょうか。実は日本でも、なつめは長い歴史を持ち、暮らしの中で静かに根づいてきました。

日本に伝わったのは古代で、近年の平城京の遺跡発掘の際にはなつめの種が多数出土しています。漢方の知識とともに日本にも伝わり、胃腸をいたわり気持ちを落ち着ける薬として使われ、今でも多くの漢方薬に配合されています。薬用としてのなつめは、私たちの健康を支える存在だったのです。
その後、江戸時代になると園芸文化が盛んになり、なつめは庭木や果樹としても親しまれるようになりました。丈夫で育てやすく、秋には可愛らしい実をつけることから、家庭の庭先に植えられることも増えていきます。らくだ道商店のお客様にもなつめの木が庭に植っているという方がたくさんいます。紅い果実と棘が邪気払いになるということから鬼門に植えたり、お金持ちの家の玄関先にはなつめの木を植えるなど、様々な謂れを聞いてきました。茶道で使う茶器「棗(なつめ)」の名前も、この果実の丸みを帯びた形に由来しているとされ、日本文化の一部としても息づいてきました。

明治から昭和にかけては園芸書にも紹介され、各地の庭や畑で栽培されるようになります。愛媛県大洲市や熊本県玉名市には樹齢200年を超えるといわれる古木が残り、当時から人々の暮らしの中で大切にされてきた証として、市の天然記念物や文化財にも指定されています。
そして現代では健康や美容への関心が高まる中、なつめ茶やドライなつめは再び注目を浴びています。自然な甘みでリラックスでき、鉄分やビタミンが豊富。薬としてだけでなく、美味しく、やさしく暮らしに寄り添う存在として受け継がれているのです。

愛らしい紅い果実に込められた長い歴史。薬用として、庭木として、そして癒しのひとときのパートナーとして。なつめはこれからも、私たちの生活にそっと寄り添い続けてくれることでしょう。